The noon that is peace.(土方)
「おい、いい加減どけ」
人の膝の上に頭を預け、さっきからずっと気持ち良さそうに目を瞑り横になっているを呼ぶ。
その声には片目だけひらいて俺の顔を見ると
「いやよ」
といい、また目をとじてしまった。
「だって次にいつこうして貰えるか分からないもの」
もっともな意見に言い返すことばを失い、土方は黙った。
I worry about you.(土方)
「どこへ行くの」
下駄をつっかけていると、うしろから声がした。
「見回りだ」
刀を腰に差しながら短く答えた。
振り向かずともが今どんな顔をしているのか分かっている。
「身体が冷えるぞ。さっさと布団にもどれ」
そんな言葉もあいつには何の気休めにもならないこともよく知っていた。
きっとお前は冷たい身体で、帰ってきた俺に「おかえりなさい」と言うんだ。
I am afraid.(沖田)
「こわい、」
何がです、と返す総司の目がやさしくて、弱くて。
増大する不安に心が痛い。
「さんが心配することは何もありませんよ」
そんな顔で微笑まないで、抱きしめないで、愛してるなんて言わないで。
いっそ泣いてくれたら、
いっそ突き放してくれたら、
いっそ嫌いになってくれたら。
「良かったと思っているんです。私が置いていかれる身じゃなくて」
不謹慎ですよね、そう言ってあなたはまた私の頬を撫でる。
じゃあ置いていかれる身の私はどうしたらいい?
「総司がいなきゃ、生きられないよ」
A flower bloomed.(沖田)
「あなたがいてくれて、私は幸せです」
やわらかな日差し
この前までは、洗濯をするさんの手が冷たい水で真っ赤だったのに、もうすっかり春なんですね。
目が覚めたとき、枕元に花のついた桜の枝が置いてありました。
身体の起こせない私でも見れるようにというさんの気配りなんでしょうね。
嬉しくて、嬉しくて、嬉しくて涙が出そうでしたよ。
さんは素敵な女性です。私にはもったいないぐらい素敵な。
だから、伝えられるうちに伝えておきます。
「私は、幸せでした」
He said.(土方)
「蝦夷にはいつ春が来るのかな」
しゃがみこんで、地面の雪をすくうの手は、じんわり赤くなっている。
「冷えるぞ、馬鹿」
そんな俺の声も聞こえちゃいねぇ。
春が来たら、官軍の総攻撃が始まる。
「分かってるけど、やっぱり春が待ち遠しいよ」と微笑むに、俺は少しだけ救われた。
閉鎖的なこの蝦夷の地に、お前がいてくれたことに感謝してる。
だからこそ、お前だけは死なせない。
「生きろ。生きて幸せになれ」