明け方、出動がある。だから今夜は自分の部屋で寝ろ」
土方の部屋でくつろいでいると、ふいに土方が言った。
「出動ってどこへですか」
は真剣な顔で言葉を返す。部屋を彷徨っていた視線が、ぴしりと土方へ向いた。
煙管を置いて土方が吐いた白い煙は、天井のほうへ高く上がって消えた。
部屋の中がとても静かになった。
土方の切れ長い目が伏せられる。
「…とある商人が長人たちを匿ってるって話だ」
土方の目は閉じられたまま。の目を見ない。
「行ってどうするおつもりですか」
はそれでも構わないと、次の問いをかけた。
なかなか答えようとしない土方の着流しの袖を引っ張る。
「…店の主人をとっ捕まえて無理やりにでも吐かせるさ」
賄い方として働く彼女には関係の無いこと。言うつもりはなかった。
そんな土方の心情などはちっとも分かっていないようで、お構いなしに、次々に訊く。
「長人ってどれくらいいるか分かってるんですか」
「総司くんたちも行くんですか」
「体調崩してる隊士もたくさんいますよ」
土方は瞳を閉じたまま、の言葉を聞き流した。
何も言わない土方の様子を見て、もだんだん腹が立ってくる。
ちょっと聞いてるんですか、とが立ち上がろうとしたときその腕は土方に強く引かれた。
バランスを崩した女はそのまま土方のほうへ倒れ込む。
土方は倒れてくるを胸に受け止め、きつく抱き寄せた。
そして耳元で言う。
「そんなに俺が頼りねえか」
土方の低い声が、の鼓膜を揺らす。
彼女は土方の胸に顔をうずめたまま、少し涙声で言った。
「絶対に帰ってきてください」
土方は微笑み、を抱き寄せる腕に力を入れると、「待ってろ」と彼女の流れる黒髪に優しく口付けた。
2004.05.24