「はいどうぞ」
が差し出したのは、土方宛に届いた文。
「なんだこりゃ」
「ご覧の通りです」
「誰からだ?」
「知りませんよそんなこと。土方が一番よく知ってるんじゃないですか?」
はすぱすぱと返事を返す。心なしか土方に対する態度が冷たい。
しかしそんなの様子にも構わず、土方は文を広げ目を通し始めた。
そしてあろうことか途中で土方の顔がにやけたりする。
それを横目で見ているが不機嫌にならないわけがない。
いい加減頭にきたらしく、まだやることが残ってますので、とが部屋を出て行こうとすると、やっとのことで土方が文から顔を上げた。
「おい、茶ァ淹れてこい」
は分かりましたとだけ言い、少し乱暴に障子を閉めて立ち去った。
「随分遅えじゃねえか…」
「どうもすみませんね」
が土方にお茶を持っていったのは先ほどの出来事から既に四半刻が経っていた。
まだ怒っているようで、土方と目を合わそうとすらしない。
土方はその態度が気に入らず、さっさと部屋を出て行こうとするの腕を捕まえた。
「離してください」
「それは出来ねえな」
もう夕餉の支度の時間です、と言って土方を振り払おうとするが、力が敵うはずもなく。
土方はを自分のほうへ引き寄せると、無理やり押し倒した。
「ちょっと土方さん、こんな昼間っから」
「あ?昼間じゃなかったらいいのかよ」
「そ、そうじゃなくって!」
の抵抗も虚しく、その唇は塞がれてしまった。
その優しい口付けには怒っていることさえも忘れてしまう。
長い口付けのあと、やっとが土方の目を見た。
「…ったく、急に不機嫌になりやがって。何だってんだ」
の持ってきたお茶をすすりながら、目の前で正座するに言う。
「…だって…わざわざ人の前で恋文読むことないじゃない」
「恋文だァ?」
土方は、読んでみろ、とついさっきまで読んでいた文をに渡した。
は並んだ文字を目で追っていく。
「…これって、沖田さんの…」
「総司の姉からだ。この前、総司の体調が悪いと俺が文を書いたからな」
「……」
「これで満足かよ」
土方はの膝に頭を乗せ、横になる。
「なんだ、妬いたか」
土方が愉快そうに口角を上げて笑いながら言う。
悔しいが反論のできないは、小さい声でぼやく。
「……悪いですか」
「いや、面白ぇ」
「……」
「そんな顔すんなよ」
面白ぇという言葉に、は顔を歪ませる。
その様子を見て、ますます面白そうに笑う土方。
普段だったら怒って怒鳴る彼女が、今は言葉すら返さない。
土方はそんなを愛しそうな目で見つめた。
「心配すんな。ほどいい女はどこ探してもいねぇよ」
その一言は、の機嫌を直すのに充分だったようで。
は顔を少し紅く染め、照れくさそうにはにかんだ。
この先訪れるであろう未来が闇だったとしても、せめて今だけは。
柄にもなく土方はふと、そんなことを想った。
2004.05.27(2010.03.31改訂)