「今日こそお前ん家行くぜ」

容姿端麗、頭脳明晰、類稀なる運動神経、無限の財力。
教師でさえも手玉に取って驚異的なカリスマで学園を支配する男・跡部景吾の一言に、は凍りついた。




     





跡部景吾は常々疑問を持っていた。自分の彼女であるについてである。
どれほど優秀だと言われる頭脳と才能(インサイト)を持ってしても理解することができない。
なんでこいつはこんなに金がないんだ?

そりゃあお前と比べれば、と言われるかもしれないがそうじゃない。言い直すと、「なんであんなにバイトをしているのにお金がないのか」ということである。

はたった3年間しかない高校生活を、部活にも所属せずバイトに情熱を傾けていた。毎日授業が終わると一分一秒を惜しむかのように足早にバイトへ向かう。水曜日は部活が休みだからバイトを空けろと言っても聞きやしないし、電話に出ない・メールが返ってこない理由は必ず「ごめんね、バイトだったの」だ。

以前どうしてそんなにバイトに勤しむのかと聞いたところ、返って来た答えは「だって色々欲しい物あるじゃん。うちお小遣い少ないし足りないんだよー」といういたって普通のものだった。その時は、宍戸が「庶民のお小遣いなんてせいぜい5千円なんだよ」と言っていたのを思い出し納得した。確かに5千円じゃ何も買えまい。

だが、バイト代があるにも関わらずはいつも金がないと言う。
交流棟に誘えば「お金ないから自販機でいい?」とか(奢ってやると言ってるのに)、デートに誘えば「今月かなりピンチだから来月にしよ!」とか(奢ってやると言ってるのに)、一体何なんだ。
これまで幾人かの女と付き合ってきたが、そんな扱いをされたことは一度もなかった。というかそんな扱いをされたら平気で暴言を吐きまくっただろう。我ながら成長した。
しかしあいつはこの俺様と付き合えて光栄だなんてちっとも思っちゃいねえ。まあそんなところが気に入ったんだが。
お金>>>>>>>>>>>>俺の図式に、そろそろ我慢の限界だ。


これまで一度も家に入れてもらったことはない。が頑なに拒むからだ。そんなに家が貧乏なのか、バイト代で何を買っているのか、の家に行けば分かるだろう。今日は俺の部活も、あいつのバイトもない。この日をどれだけ待っていたことか…!

俺様よりもどうしてそんなに金が大事なのか、この目で確かめてやる。



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2009.06.04